現在物流業界に大きなダメージを与えている「2024年問題」
この問題は運送業者にとどまらず、荷主や消費者といった幅広い層に影響を与えており、今日本全体で取り組むべき重要なテーマと言えます。
今回の記事では2024年問題を具体的にご紹介するとともに、2024年問題がもたらす課題やその対策方法について詳しく解説しています。
ニュースで目にする機会も多く、物流関係の方はもちろん、そうでない方にとっても知るべきトピックです。
ぜひ最後までご覧ください。
物流業界の2024年問題とは?
2024年問題の概要
2024年問題とは、自動車運転の業務に対して、年間の時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで発生する問題の総称のことです。
なぜ物流業界に影響が大きいのか?
時間外労働時間が制限され、一見良いことに聞こえるかもしれません。
しかし物流業界では具体的に、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、1人当たりの走行距離が制限され、長距離でモノが運べなくなると予想されています。
物流業界において走行距離は売上に直結するため、売上減少は免れないのが現実でしょう。
またトラックドライバーの仕事は車を走らせるだけでなく、荷物の集荷作業や現場待機時間などがあります。
一般的に知られてはいませんが、それらの時間は1日の業務の3割程度を占めており、この時間も立派な業務時間です。
荷主が荷物を用意するまでは当然待たなければいけないので、集荷時はトラックドライバーが順番待ちをし、現場待機という形になります。
このような拘束時間もあるため、労働時間の短縮は難しい業界と言えるでしょう。
それによりトラックドライバーの収入が減少したり、運送料金の設定価格が崩壊するなどの恐れがあります。
2024年問題発生の背景
これらの背景には2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」があり、
・同一労働同一賃金
・時間外労働の上限制限
・年次有給休暇の時季指定
というポイントがあります。
トラックやバス、タクシーの運転手などの自動車運転の業務は、働き方改革関連法で決まった時間外労働の上限規制に対して、あまりにも非現実的でした。
そのため2024年3月31日まではトラックドライバーに対して、時間外労働の上限規制に当てはめないなどの猶予がありましたが、2024年4月1日移行は上限960時間という時間外労働時間の制限が施行されます。
2024年問題が突きつける具体的な課題
ドライバーの賃金低下と離職リスクの増大
一般的にトラックドライバーは「走れば走るほど儲かる仕事」という魅力があり、労働時間の長さに理解のあるドライバーも多く、むしろそれが高収入に繋がるという考えがありました。
しかし2024年問題によって時間外労働時間が制限されれば、ドライバーの収入減少に当然直結します。
そして給料が減ることで、トラックドライバーを辞め転職を考える従業員が必ず現れます。
トラックドライバーはただでさえ不足しているのに、2024年問題でさらにドライバー減少へ拍車をかけるでしょう。
中小運送会社の倒産危機と物流網の崩壊
運送会社の売上減少は避けられず、倒産危機に陥る会社は増加するでしょう。
売上減少の打開策に運賃の値上げがありますが、これを行うと荷主の売上が減少します。
当然荷主は売上減少を避けるべく、より安い運賃で運んでくれる運送会社を探すので、これまでとは違う業者との付き合いが始まるかもしれません。
これらのことが影響し、新たな運送会社を使うことでの運送遅延や、最悪品物を運ぶ業者が存在しなくなるなど、物流網の崩壊危機にあります。
物価上昇による消費者への影響
近年様々なモノの物価が上昇しており、これらの影響は運送業界にも如実に現れています。
特に燃料代は運送業界に大きく影響しており、売上にかなりのダメージを与えています。
そしてその影響は消費者へと繋がります。
荷主が運送会社へ支払う運賃をアップすれば、売上減少を避けるために消費者の購入価格を上げるしかありません。
すでにスーパーなどで値上がりを感じている方も多いでしょうが、その値上げにはこれらのような背景があります。
2024年問題を乗り越える!実効的な対策と成功事例
人材確保のための戦略:賃金体系の見直し、労働環境の改善
先に紹介したように、運賃の値上げは必須条件となるでしょう。
しかし値上げの提案により取引を失うことを懸念している運送業者も多いでしょう。
これらの対策として、運送業者全体で運賃の値上げを提案するという方法があります。
仮に全業者が運賃上昇を掲げれば、荷主はどの業者に対しても上がった運賃で対応せざるを得ません。
もはやイチ企業でどうにかできる問題ではなく、運送業者が手を取り合って打開する問題です。
さらには20204年問題によって変化する労働環境における、ドライバーの勤怠管理も重要です。
荷待ち時間の削減のために荷物の積み下ろしを予約制にしたり、配達時には臨機応変に高速道路を利用するなど、運行計画の見直しなども有効な方法の一つです。
業務効率化:DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入、共同配送
業務の効率化を図る上で、共同配送という打開策があります。
共同配達とは、複数の物流企業が1つのトラックやコンテナに同じ届け先の荷物を積載し、配送することです。
共同配送をうまく活用できれば、配送効率が上がり必要最低限の車両での配送が可能です。
つまりドライバーの不足や長時間労働などの問題解決に直結するので、安定的な物流事業を継続させるためにも社会全体で考えていくべき課題といえます。
しかし共同配送は管理が複雑になってしまうため、破損や紛失、追跡がしづらいなどのトラブルが発生しやすくなります
より正確かつ効率的に業務を改善する方法として、デジタルツールの導入が挙げられます。
物流業界を手助けしてくれるデジタルツールには、安全運転管理者の車両管理業務の効率化はもちろん。日報作成や車両点検業務の自動化などドライバーの働き方改革も支援してくれるものがあります。
さらに共同配送に向けた配車計画の効率化に特化したものもあります。
先に紹介した共同配送の複雑さを解消するために、これらのツールを用いることで、配車計画の大部分を自動化し大幅な時間短縮や配車ミスの減少を図ることが可能です。
成功事例紹介
遠隔地である北九州市中央卸売市場と横浜市中央卸売市場本場の両青果卸売業者は、お互い集荷した小ロット品目の青果物を大型トレーラーにて共同配送を行い、週に2〜3往復の配送を実施しました。
それまで各産地の青果を大型トレーナーによってそれぞれ陸上輸送していましたが、船舶輸送によるモーダルシフトも併用することで効率の良い往復荷のやりとりを実現させました。
この取り組みによって両市場の品揃えが豊富になっただけでなく、仲卸等の顧客満足度も向上したそうです。
また両卸売業者の職員の人的交流も活発になり、人材育成にも好影響を与えています。
【参照】農林水産省 大臣官房新事業・食品産業部「物流2024年問題に対応した先行事例について」|農林水産省(2024年1月)
まとめ
2024年問題が及ぼす物流業界への影響は、現状のドライバー不足に拍車をかけるだけでなく、物価上昇などの原因になることが分かりました。
しかし悪いことだけでなく、問題解決に向けた具体的な対策がいくつも挙げられ、労働環境の改善や配送の効率化が図られています。
重要な点としては、個人や企業がどうにかできる問題ではなく、業界全体が取り組む問題ということです。
物流業界の未来のためにも、関連企業と手を取り合って対抗しなければなりません。